2025/07/02 13:30

ある日、ふらっと立ち寄った本屋で、私は一冊の本に出会いました。
それは、ビジャー香代子先生のカルトナージュ作品集。
ページをめくるたびに、美しいジュエリーボックスが次々に現れ、私は瞬く間にその世界に引き込まれました。

「こんな素敵な宝箱を、自分の手で作ってみたい——」
そう思った私は、すぐに行動に移しました。

当時、自由が丘にあったカルトナージュ教室のk先生のアトリエに入門。
フランスの空気が漂うその空間には、刺繍生地や海外から仕入れた美しい布たちがあふれていて、夢中で学びました。

先生が手がけたジュエリーボックスは、ひとつ約6万円。
取っ手が総ビーズ。生地合わせもびったり。海外のインポート生地でベルベット部分と刺繍が組み合わさった贅沢な宝箱。
6万円ではとても足りないほど繊細で美しく、今でも私の宝物です。

ただ、そんな作品でも“価格に見合うだけの利益が出ない”という理由で、先生はカルトナージュ制作をやめてしまいました。
私は、その決断がとても残念でした。そして同時に、「私が先生のような宝箱を作って届けたい」と心から思ったのです。

もちろん、現実は甘くありません。
高価なジュエリーボックスは、そう簡単には売れません。
でも、私のように“本当に良いもの”を探している人は、きっとどこかにいる。

そう信じて、試行錯誤を重ねながらジュエリーボックス作りを始めました。

今でも、あの日本屋で見つけたあの本は、私の宝物。
そして、ものづくりの人生を大きく動かした“運命の一冊”です。