2025/07/02 13:00
私は18年間、繊維業界の中でテキスタイルデザイナーとして仕事をしてきました。
その中でずっと感じていたことがあります。
それは、「本当に良い生地を作る工場や糸屋さんが、どんどん減っている」という現実です。
意匠性の高い生地——。
それは、糸からこだわり、時間と手間をかけて丁寧に織られたものです。
大量生産とは真逆の存在。だからこそ、機械を高速で動かすことができず、扱いも難しく、技術と経験が必要です。
当然、価格も高くなります。でもその分、風合いや繊細さは、量産生地にはない美しさを纏っています。
私はそんな生地が好きで、今までに何千種類という布を見てきました。
眺めるだけでも、心が満たされるような生地もありました。
けれど、一般の方がそれをじっくり見る機会は、きっとほとんど無いのではないでしょうか。
何百年も昔、生地は“褒美”として与えられるほどの価値がありました。
今の値段に換算すると、家が1軒建つような価格だったようです。
けれど今の時代、生地に高いお金を払う人はとても少ない。
それは仕方のない流れなのかもしれませんが、私はどうしても、この美しい布たちを埋もれさせたくないと思いました。
そこで考えたのが、ジュエリーボックスを作るということでした。
限られた量しかない宝物のような生地を、小さな箱に仕立てる。
その中に、誰かの大切なアクセサリーや思い出を収めてもらえたら、生地もまた、時を超えて大切にされていくのではないかと。
私にできることは小さなことかもしれません。
でも、ただの素材として消費されるのではなく、「これは美しい」と感じてもらえるように届けること。
それが、私なりの“未来へつなぐものづくり”です。